
教育分野担当教授
西尾 亜希子
学校で子どもたちが息苦しさを感じるのはなぜか。学校での「当たり前」を問う必要がある。
- プロフィールについて教えてください。
- 教育社会学が専門で、特に高等教育におけるジェンダーやセクシュアリティの問題について研究をしています。大学時代に語学留学をしたイギリスで、公の場でためらうことなく男性と口論したり、もともとの職場のほぼ真向いの職場に転職をしたりしている女性を見て「イギリスの女性は何て自由で強いんだろう!」と衝撃を受けると同時に、「でもなぜ自分はそうではないのか」と思い、愕然としたことが、研究の道に進んだきっかけです。今思えば、私が出会った女性たちが実際には「イギリス人」だったのか、「女性」だったのかもわかりませんし、そもそも「イギリス人」や「女性」とひとくくりに捉えること自体、問題があるのですが、当時はとにかく大学院に進んで、日英の女子教育の比較研究をし、自分なりの答えを出さなければと思いました。その後、日英の大学院で学ぶことになるのですが、娘に20代半ばでの結婚を望んでいた両親はなかなかの壁でしたね。祖母も加わっていましたしね。何とか壁を突破しなければと、説得には恩師の協力を得たり、先に入学許可や給付型奨学金を得てしまったりと結構無茶もしてきました。その後は応援もしてくれましたし、深く感謝していますが。
- 研究内容について教えてください。
- 大学生の学生生活や大学から労働市場へのトランジションにおけるジェンダーやセクシュアリティにかかわる問題について研究しています。研究対象は大学生の場合が多いですが、大学自体の場合もあります。例えばこれまで大学生のキャリア(観)におけるジェンダー問題に関心を持ち、研究を進めてきました。けれども、男女二元論では語れないセクシュアリティの問題もあることや、その場合は非常に問題が多岐にわたり、また複雑であることがわかってきました。そのためセクシュアリティにかかわる問題や、大学生だけでなく、大学のカリキュラムや支援体制の現状などについても研究しています。現在は、大学におけるLGBTQ+学生のための支援体制について研究を行っています。
- また、これらの研究については、欧米の先行事例を参考にしたり、現地でのフィールドワークを取り入れたりしながら進めています。
- なぜその研究が社会にとって必要なのかを教えて下さい。
- ジェンダーやセクシュアリティは人権にかかわる要素であるにもかかわらず、社会的にその認識が弱く、偏見や差別が絶えません。「子ども」の捉え方も、人によってまちまちで、子どもの人権について議論されることも少ないように思います。
- 本来、人権にかかわるこのようなテーマは、初等教育段階からしっかり取り挙げられ、子どもたちの理解を促す必要があります。一人の教員そして研究者として日々思うことは、学校で行うべき教育を行えば、社会は変わるということです。
- 例えば、人権教育としてセクシュアリティの視点を取り入れれば、子どもたちの間で人権感覚が養われ、からかいやいじめが減り、社会も包摂的になっていくのではないでしょうか。私は大学の教員であり、高等教育段階にある身ですが、決して遅すぎることはないと考え、そのような教育を行っています。


- ご担当の科目の臨床教育学の中での役割を教えて下さい。
- 令和8年度から「現代子ども理解特論」と「教育問題特論」を担当します。世界的に見て、日本の子どもの精神的幸福度が低く、自殺率が高いことはよく知られています。子どもたちは家庭生活以上に学校生活に不満を感じているという調査報告もあります。こうした深刻な状況を鑑みて、教育の現場で「子ども」がどのように捉えられ、教育(運動会をはじめとする学校行事、部活動、校則などを含む)が行われているのか、そしてどのような問題が起きているのかについて、ジェンダーやセクシュアリティの観点から見ていきます。また、その際、子どもたち自身は今日の教育をどう受け止めているかという点も大事にして考察します。
- 科目は異なりますが、こうした共通のアプローチを取ることを通じて、臨床教育学の発展に寄与できればと考えています。
- ゼミ運営の特長として意識されていることはありますか。
- 気づきを促すことです。他者の意見がどのようなものであれ、まずは聞く耳を持つということです。同じ物や事柄について議論するにしても、ひとりひとりが積み重ねてきた経験や知識によって見え方は異なります。したがって、他者の意見が間違っていると思っても、否定するのではなく、まずはその人がなせそう考えるのか理由について質問し、質問された側はそれについて答えるというやり取りを重ねる方がお互い学びは多いですね。実際、そのようなプロセスを踏むことで相互の理解が進みますし、気づきにつながることが多いと感じています。そのような気づきが素晴らしい研究につながることもあると考えています。

- どんな経験や関心をもつ学生に進学してほしいですか。
- 幅広い経験や個性的な関心を持っている方に進学いただきたい気持ちもありますが、それ以上に、ある程度の素直さを持つ方に進学してほしいという思いがあります。研究を進める上では社会で当然と考えられていることを批判的に捉える姿勢は大事ですが、学ぶという面においては、立場や年齢などに関係なくある程度の素直さがある方が学びが多くなると思うからです。私自身、研究者間で議論している時につい意固地になってしまい、「あの時素直に聞いておけばもっと学べたかも」と反省することがあります。自戒を込めての希望ですね。
- これから受験しようとする方へメッセージをお願いします。
- 「日頃の疑問、違和感、怒りを大事にしてください。きっと良い研究テーマになると思います。」私が大学院生の時に指導教官からもらったことばで、今も大事にしています。すでに研究テーマをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、何となく大学院で勉強してみたいと思っておられる方はぜひそうしてみてください。疑問、違和感、怒りの理由や、問題の所在や背景を知りたいと思う好奇心は大学院での学びには大事ですし、何より学びを楽しくさせてくれますので。
